【6】ピエゾバランス粉じん計について

大気中で浮遊する粒子状物質の標準測定では、浮遊粒子状物質の質量濃度を評価します。標準的な測定方法はフィルター秤量法です。その測定方法ではサンプリングや秤量を行う上で種々の誤差要因があり、測定に熟練を必要とし、かつサンプリングに長時間を必要するなどの問題点があります。
これらの測定上の問題を解決して開発されたのが、ピエゾバランス法(圧電天秤法)による粉じん計です。ピエゾバランス粉じん計の最大の特長は、短時間で測定が行なえるので、サンプリング時間の長いローボリュームエアーサンプラでは測定が難しかった粉じん濃度の変動にも正確に追従し、リアルタイムに測定できます。また、光散乱式粉じん計では粉じんの物性(大きさや形状。色など)に影響されていましたが、ピエゾバランス粉じん計ではこの依存性がないため、事前に粉じんの物性が分からなくても、正確な測定が行え、粉じん質量濃度が直接デジタル表示で測定出来ます。
 

 
動作原理                             
ピエゾバランスとは、「ピエゾ(圧電効果、逆電圧効果)」と「バランス(天秤)」を合わせた言葉で、天秤の上に粉じんを静電捕集することにより、空気中の粉じん濃度を求めるものです。下に構造図を示します。
図.1 ピエゾバランス粉じん計の計測ブロック図


 
エアロゾルは、インパクタ部のエアロゾル入口より本器内に入ります。空気中に浮遊する粒子のうち、一定粒径以上の空気動力学的粒子径を有する粒子は、インパクタ内の衝突板上に衝突し、捕集されます。その捕集された粒子は、再飛散がなければその衝突板上に残ります。インパクタを通過した粒子は、静電捕集器内に入った後、コロナ放電電極に沿って流れ、ノズルを通ってコロナ放電の強い電界中に入ります。コロナ放電電極の先から圧電結晶素子(クリスタル、結晶素子)表面の電極に向かって流れるコロナ電流によって空気中に浮遊する粒子が荷電され、その電界により、圧電結晶素子電極上に静電的に捕集されます。コロナ電流は、常に数μA程度のー定値に制御されています。圧電結晶素子は、両電極を、発振器と周波数混合器および指示回路に接続されており、一定の電圧を加えることにより固有の振動を発します。圧電結晶素子上に捕集された粉じん質量による固有振動数からのずれ、すなわち周波数の変化量(Hz)と捕集粉じん量の比例関係から、圧電結晶素子上に捕集された粉じん質量が求められます。吸引空気量と圧電結晶素子上に捕集された粉じん質量(μg)から、エアロゾル中の粉じん濃度(mg/m3)を求めることが出来ます。
 
吸引流量                             
1 L/minで吸引しています。インパクタノズルの吸引口で流量を確認し、基準流量計1 L/minに対して±5%以内となるようにしています。一定の吸引流量が確保できない要因として、気密性、ポンプの破損、劣化があります。気密性は、多くの場合圧電結晶素子部の漏れが原因となっています。ポンプは、経時的劣化によるものが多く見受けられます。
 
質量と周波数の関係                        
圧電結晶素子の周波数の変化量(基本周波数*に対してのずれ)と、捕集される粉じん質量には、2,000 Hz以内の範囲で、1 μg/180 Hz(代表値)の比例関係が成立します。
*完全なクリーニング終了後に、圧電結晶素子上に粉じんが無い状態での固有振動数

 
質量濃度と周波数の関係                      
周波数の変化量と粉じんの質量濃度との関係で示すと、0.5 mg/m3/180 Hz(代表値)となります。この場合、2分間の測定を行うので、吸引した総空気量は2 Lです。周波数の変化量から粉じん濃度を求める際、吸引流量・帯電効率・捕集効率・捕集量・温度・湿度・測定対象粉じんの物性要因の影響を受けます。個々のピエゾバランス粉じん計は、校正によって種々の影響を総合的に補正する係数が与えられますので、質量濃度と周波数の変化量の関係式は、それぞれ若干異なります。

濃度計算式
 C=α×△f
 α=1/(E×s×t×Q)
ここで 
 C:濃度値(mg/m3
 α:係数
 △f:計測前後での周波数差(Hz)
 E:帯電効率
 s:圧電素子の感度(Hz/mg)
 t:時間(s)
 Q:吸引流量(m3/s)

測定範囲                             
前述のように、周波数の変化量2,000 Hzの範囲で粉じんの質量濃度との比例関係が成立するので、2,000 Hzの変化に対する粉じん濃度は5.5 mg/m3となり、これが測定範囲となります。

クリーニング                           
圧電結晶素子に捕集される粉じんの質量には限界があります。比例関係を越えた場合、圧電結晶素子上の粉じんを除去しなければなりません。そのため、ピエゾバランス粉じん計には、簡単に操作できるクリーニング機構を備えています。

K値(質量濃度変換係数)                               
ピエゾバランス法は、粒子径や色等による差はなく、光散乱方式に比べて標準測定法との差が少なく、大気中の浮遊粒子状物質では、概ねK値=1で測定できます。水晶面上に粉じんが均一に捕集された場合には、理論上、周波数の変化量と粉じんの量とが1:1の対応を示しますが、均一に捕集されない場合、1:1の対応を示さないことがあります。均一に粉じんを水晶面上へ付着させるため電気集じん法が用いられますが、粒径の大きな粉じん粒子は、慣性効果によって水晶面上の中央部に捕集されるので、水晶面上に捕集された粉じんの質量に対する周波数の変化量が大きくなり、質量濃度を高く評価します。綿のような空隙の多い状態で捕集された場合には、逆に水晶面上に捕集された粉じんの質量が多いにも関わらず周波数の変化量が少なく、質量濃度を低く評価する傾向があります。例として、ローボリュームエアーサンプラによる標準測定法と、ピエゾバランス法での併行測定を行った場合のK値を示します。
           
作業場所名 標準測定法による
質量濃度(C)(mg/m3
ピエゾ法による
質量濃度(R)(mg/m3
K値(=c/R)
(質量濃度変換係数)
溶接1 5.3 4.4 1.2
溶接2 2.2 2.4 0.92
ガラス原料調合 8.9 3.3 2.7
ガラス原料溶解 0.75 0.18 1.2
金属研磨 0.37 0.11 3.1
鋳鉄ばらし 0.67 0.16 4.2
鋳鉄鋳込み1 0.85 0.33 2.6
鋳鉄鋳込み2 1.17 0.40 2.8
 
 
インパクタ                                                     
測定対象となる粒子径の粉じんを選択的に分けて本体内に吸引するため、吸入部にインパクタが取り付けられています。インパクタ部は、インパクタボディとインパクタノズルで構成され、インパクタノズルを交換することにより、分ける粒子径を変えることが出来ます。
ピエゾバランス粉じん計用に準備されているインパクタノズルの種類は、次の3種類となります。
・10 μm 98%cut
・7.07 μm 98%cut
・4 μm 50%cut
※インパクタ原理についてはこちらを参照してください。

 
 

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