近年、電気・電子機器分野において、「軽薄短小」化の製品ニーズの高まりに比例し、発熱する実装部品の高密度化による、発熱量の増大や局所集中が課題となっています。また、空冷ファンの静音化、ひいては空冷ファンレス化という制約条件も課せられ、これら全ての問題をクリアする熱対策を行う必要が生じています。
従来の熱対策では、機器内部の温度分布測定だけに留まることが多かったのですが、上述のような厳しい条件を満足するには、温度分布だけでなく冷却風速分布も測定し、温度分布と風速分布の照合検討を行わなければなりません。
風速計のトップメーカーとして、多様化する風速測定ニーズを見極め、高性能で利便性の高い風速計、および計測ソリューションを提供していきたいと考えています。
(※1) 風速素子を搭載した測定棒のこと。原義は動物の触角。英語表記:Probe
電気・電子機器の熱対策に適用できる風速計
アネモマスター多点風速計
多点風速計本体、風速モジュール、風速プローブ、モジュールとプローブ間を接続するプローブケーブルで構成されます。さらに、専用計測ソフトウェア(別売)をインストールしたパソコンとの接続により、計測データのパソコンへの取り込み、グラフ表示、CSVファイルへの変換が可能です。
風速モジュールには、1枚あたり最大4本のプローブを接続できます。
多点風速計本体には、モジュールを最大16枚搭載できるモデル(Model 1550)と最大6枚搭載できるモデル(Model 1560)の2種があり、本体1台あたりそれぞれ最大64点/24点の多点同時計測が可能です(複数台の本体の接続により、最大320点まで対応可)。
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写真1 アネモマスター多点風速計外観 |
4チャンネルアネモマスター風速計
アネモマスター多点風速計の廉価版です。
風速計本体、風速プローブ、プローブケーブルで構成されます。品名のとおり、本体1台あたり最大4点の同時計測が可能です(多点風速計のように、複数台の本体を接続して拡張することはできません)。
インタフェースにRS-232Cおよびアナログ出力(DC 0~5 V)端子を標準装備しています。また、パソコン用計測ソフトウェアも標準で付属しており、多点風速計と同様、計測データのパソコンへの取込、グラフ表示、CSVファイルへの変換が可能です。
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写真2 4チャンネルアネモマスター風速計外観 |
風速変換器
プローブで検知した風速値を4~20mAまたは0~5Vのアナログ出力に変換する変換器です。
風速変換器本体、風速プローブ、プローブケーブルで構成されます。風速を指示する7セグメントLED表示器の付いた器種(Model 6332D)と、表示器のない器種(Model 6332)の2種があります。
複数台を組み合わせて、複数チャンネル対応のデータロガーで計測データを取り込めば、多点同時計測を実現できます。
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写真3 風速変換器(Model 6332D)外観 |
クリモマスター風速計
高機能のハンディータイプ風速計です。風速計本体にはデータロギング機能があり、最大20,000データを保存できます。
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写真4 クリモマスター風速計外観 |
風速プローブ
旧来の風速計は、風速計本体とプローブが一対で構成されており、1台の本体に対して別のプローブを付け替えることはできませんでした。
しかし、上項で紹介した風速計・風速変換器は、全て1台の本体に対して自由にプローブを付け替えることができます。不測のプローブ故障時でもメーカー修理に出すことなく、プローブの交換だけで即座に復旧でき、測定場所の状況に応じた複数種類のプローブの使い分けも可能です。
①風速センサー ②温度補償センサー
写真5 ミニチュア温度補償一体型・分離型プローブ
多点風速計・風速変換器用プローブ
アネモマスター多点風速計、4チャンネルアネモマスター風速計、風速変換器に共通して使用できる風速プローブは、全部で10種類あります。中でも直径2 mm、長さ1 mのシールドケーブルの先端に、直径2.5 mmの球状素子を配した4器種(Model 0965-03/0965-04/0965-07/0965-08)が、狭小空間の計測に適しています。
Model 0965-03/0965-04では、風速素子と温度補償素子(※2)がミニチュア温度補償一体型で同一ケーブルの先端に付いているのに対し、Model 0965-07/0965-08では、ミニチュア温度補償分離型で別々のケーブルに付いています。風速測定時には、風速素子だけでなく、温度補償素子にも測定対象の空気流を当てる必要があるため、ミニチュア温度補償分離型は、一体型よりもプローブ設置の自由度が高いことが特長です。
(※2) 測定対象空気の温度変化に対する補正を行うのに必要な素子
クリモマスター用プローブ
クリモマスター風速計に用いることができるプローブは、全部で7種類あります。中でも、グリップ部から伸びた長さ1mのシールドケーブルの先端に直径2.5 mmの球状素子を配したModel 6551-2や6552-21が、狭いカ所の風速測定に最適です。
サーモグラフとの併用事例
物体表面から放射された赤外線を検出器でとらえ、温度変換して物体表面の温度分布を可視化する装置として、サーモグラフが挙げられます。
このサーモグラフと風速計を組み合わせて、液晶ディスプレイ内部の空冷ファン冷却効果を確認した事例を紹介します。
使用機器
・4チャンネルアネモマスター風速計(Model 1570)
・プローブ(Model 0965-03)
・サーモグラフ(NECAvio赤外線テクノロジー株式会社 TH9100Pro)
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写真6 測定風景 |
測定方法と測定結果
写真7のとおり、ディスプレイ内部の基板上の3カ所にプローブを配置して風速を測定すると同時に、サーモグラフで温度分布の経時変化を追いました。ディスプレイの電源ONから、ほぼ熱平衡状態になった10分後までの風速変化を図.1、温度分布の変化を写真8~11に示します。
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写真7 風速センサーの配置 |
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図.1 3カ所の風速変化 |
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写真8 温度分布の変化(ディスプレイ電源OFF) |
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写真9 温度分布の変化(電源ONから4分後) |
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写真10 温度分布の変化(電源ONから7分後) |
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写真11 温度分布の変化(電源ONから10分後) |
測定上の留意点
これまで紹介してきた風速計は、熱式風速計と呼ばれる方式を採用しています。本方式では、所定の温度で発熱させた風速素子から風によって奪われた熱量を風速に換算・出力しています。
今回使用した器種(Model 0965-03)は、測定対象空気の温度プラス50℃に保つ機構を有しており、冷却空気は常温(約20℃)のため、素子表面温度はおよそ70℃になっています。しかしサーモグラフの表示画像には、球状素子がほとんど映り込んでいません。これはModel 0965-03の球状風速素子の表面が鏡面に近いので、表面からの赤外線放射量が少なく、サーモグラフでは捕えにくくなるためです。上項で紹介したミニチュアプローブ4器種以外のプローブに搭載された風速素子は、このような特性を持っておらず、サーモグラフ画像に映り込んでしまい、本来観察したい温度分布の表示を阻害しています。
したがって、サーモグラフとの併用時にはミニチュアプローブの使用が効果的です。
※写真6および8-11 NECAvio赤外線テクノロジー株式会社提供