事例紹介:名古屋大学 天野研究室
次世代パワー半導体として注目、窒化ガリウムの結晶成長プロセスの解明へ
【名古屋大学 天野研究室のご紹介】 平成26年にノーベル物理学賞を受賞した天野 浩教授の研究室では、新分野で世界を先導する人材の養成を目的に、青色LEDを実現させた窒化ガリウム(GaN)を用いて
・結晶成長
・白色・紫外光・緑色発光ダイオード
・レーザダイオード
・フォトトランジスタ
・太陽電池
・電力変換用パワー半導体
・ワイヤレス送電用高周波デバイス
に関する様々な研究を行っております。
なかでも次世代パワー半導体の実現に必要な結晶の高品質化(高純度化、低欠陥密度化)のために結晶成長メカニズムの解明に力を入れています。
【課題背景】
GaN結晶成長プロセス解明のための気相反応モニタリング方法 GaNデバイスの結晶成長には有機金属気相成長法(MOVPE法)が用いられ、トリメチルガリウム(TMGa、Ga(CH3)3)と アンモニア(NH3)を約1000℃に加熱した基板上で反応させることによりGaNを成長されます。 しかし、その反応メカニズムは不明な点が多く、これまでシミュレーションによる解析がなされきたものの、結晶成長炉で実際の反応過程を実験的に検証した例はありません。 次世代パワー半導体実現に必要な高純度化のためには、結晶成長における気相反応を具体的かつ正確に検証することが必要であり、その手法の確立が求められています。 GaNの原料であるTMGaとNH3が反応すると、メタン(CH4)が生成することがわかっています。 この反応メカニズムを解析するためには、NH3とCH4を同時にモニタリングする必要があります。 このような多成分のモニタリングには、質量分析計(MS)がしばしば利用されますが、MSでCH4(m/z 16)をモニタリングする際、NH3からのフラグメントイオンであるNH2(m/z 16)と整数質量で重なってしまいます。 そのため、四重極質量分析計(QMS)などの低分解能MSを用いた場合には、こうした同整数質量の成分を分離することができず、正確にCH4のみの挙動をモニタリングすることが不可能でした。(図1参照) |  図1 m/z 16の低分解能マススペクトル (クリックで拡大) |
【infiTOFによるソリューション】
マルチターン飛行時間型質量分析計“infiTOF”では、
高質量分解能による同整数質量成分のモニタリングが可能 infiTOFは小型でありながら、高い質量分解能を得ることができる飛行時間型質量分析計(TOF-MS)です。 通常のTOF-MSでは、質量分解能は飛行距離に依存し、飛行距離が長ければ長いほど高い質量分解能を得ることができます。 しかし、距離を延ばすことで装置が大型化するため、半導体プロセス装置が入り組んだ狭い場所に高質量分解能TOF-MSを設置することは困難でした。 当社が提供するinfiTOFは、8の字型の飛行空間をイオンが多重周回することで飛行距離を稼ぎ、高い質量分解能を実現しています。 そのため、狭い場所に設置できるだけでなく、精密質量分析が可能です。 infiTOFを用いた場合には、QMSでは質量分離できなかったCH4とNH2を完全に分離することができるため、結果として、NH3とCH4の同時モニタリングが可能となりました。(図2参照) こうしたことから、名古屋大学天野研究室では、GaN結晶成長において今まで解明できていない結晶成長プロセス解明へのソリューションとして導入したのがinfiTOFでした。 |  図2 m/z 16の高分解能マススペクトル (クリックで拡大) |
【infiTOFを活用した今後の研究】
infiTOFを用いることで、多成分を同時、かつ正確にモニタリングすることができるため、今後、以下のアプリケーションにおいて、infiTOFは重要な役割を果たすと期待されています。
将来的には、GaNの結晶成長プロセスを解明することにより、従来MOVPEプロセスでは実現不可能であった高純度化や伝導度制御を実現し、次世代光デバイス、電子デバイスの開発を目指していきます。
- 窒化物半導体有機金属気相成長法(MOVPE法)における成長機構の解明
- GaNの結晶成長過程における原料ガス(TMGaとNH3等)の分解・反応過程および炭素不純物混入機構の解明
- トリメチルアルミニウム(TMAl)などNH3との反応性の高い材料のアダクト形成・分解過程の解明
- 有機金属ハロゲン化物気相成長法(HVPE)の反応過程解析
【天野研究室の研究成果(学会、論文発表、等)】
天野研究室では、これまでにinfiTOFを用いてTMGaとNH3の分解・反応過程の観察や実際のMOVPE反応炉におけるその場観察を行い、研究成果を学会および論文に発表しています。
さらに名古屋大学では、理論研究グループと連携することにより、マクロな流体反応力学から原子レベルでの表面反応までを体系的に構築するマルチフィジックスシミュレーションとそれに基づいたプロセスインフォマティクスの構築に取り組み、反応メカニズムに基づいた結晶成長技術の改善に取り組んでいます。
研究成果